「つながり」が脳を、そして自分を変える:私たちは「関係性」の生き物

「つながり」が脳を、そして自分を変える:私たちは「関係性」の生き物

「自分」って、なんだろう? ぼんやりと自分という意識があるけど、それはまるで、バラバラに散らばったパズルのピースみたい。

たった一枚だけでは、全体像は見えない。私たち人間は、他の人たちと繋がることで、初めてそのピースが組み合わさり、自分らしい輝きを放つことができるのかもしれません。

この考え方は、最近の脳科学や心理学の研究が明らかにしています。

人間関係の重要性を深く理解するため」のヒントになるはずです。

孤独な「私」という幻想からの脱却

私たちは、周りの人から「自立しろ」「自分の力で生きろ」と言われることが多いですよね。それは、ある意味で当然のことかもしれません。でも、脳の仕組みから見ると、それは少しばかり偏った考え方なのかもしれません。

まるで、空を舞うムクドリの群れのように、私たちは常に誰かと関わりながら生きています。一羽のムクドリの動きが、周りのムクドリに影響を与え、それが連鎖的に広がっていくように、私たちの脳もまた、他の脳と深く繋がって、互いに影響し合いながら成長していくのです。

脳の発達と、大切な「最初の関係」

小さい頃の人間関係は、その後の私たちの心と体に、大きな影響を与えます。愛情深く、安心して過ごせる関係の中で育った人は、精神的に安定し、周りの人とも良好な関係を築きやすい傾向があります。

でも、大人になっても、周りの人との繋がりは、私たちの心身の健康を保つための大切な源です。互いに影響し合い、受け入れ合う関係は、脳の柔軟性を高め、脳の構造そのものを変化させる力を持っているのです。

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心理療法で明らかになった「関係性」の力

長年、心理カウンセラーとして、多くの人たちの変化を間近で見てきた研究者によると、人々は、様々なカウンセリングを受けながら、穏やかになり自分自身を深く理解していくことが大切であることを示唆しています。

アメリカの精神科医、アーヴィン・ヤロムは、「カウンセラーは、クライアントが自分との関係をどう感じているかを常に意識し、何が効果的で、何が効果的でないかを尋ねるべきだ」と述べています。

アーヴィン・ヤロムはその著書の中で以下のように記しています。

「クライアントの変化をもたらすのは、難しい専門用語や高度なテクニックではなく、何気ない瞬間に潜んでいることに驚きました。クライアントが私の言葉に心を動かされた表情を見せた時、私が彼らの腕を軽く叩き、受け入れの気持ちを示した時、あるいは、何も言わずにただ彼らの気持ちを理解していることを感じてもらった時にクライアントのこころの変化を感じました。

そして、それは一方通行ではありません。クライアントとの関係を通して、私もまた変化し、成長していくのです。お互いに素顔をさらけ出し、ありのままの自分を受け入れることで、私たちは脳を発達させ、世界をより広い視野で見ることができるようになるのです。」

「出会い」こそが、人生の真実

哲学者マルティン・ブーバーは、「真の人生は『出会い』である」と述べています。私たちは、他の人との関係の中でこそ、自分自身を完全に表現し、周りの世界と繋がることができるのです。

ブーバーは、言葉によるコミュニケーションだけでなく、沈黙を通じた「心からの対話」も大切だと説きます。それは、相手の存在を尊重し、相手を心から理解しようとする姿勢から生まれます。

心を開く勇気:関係性を築くために必要なこと

良い人間関係を築くためには、心の扉を開くことが不可欠です。「こうあるべき」という理想像を捨て、ありのままの自分をさらけ出す勇気を持つ必要があります。

もちろん、それは不安を伴うかもしれません。自分の弱さを見せることは、必ずしも相手との繋がりを保証するものではありません。でも、リスクを冒さなければ、心からの対話の機会を閉ざしてしまうことになります。

会話の種類:ただのやり取り、独り言、そして心を通わせる対話

ブーバーは、人との関わり方を、さらに3つのタイプに分類しています。

  • ただのやり取り 必要な情報を得るためのコミュニケーション。「充電器がつかいます?ちなみにタイプは?」「USB-C型です。」

  • 独り言のような対話: お互いに話しているように見えて、実際には自分の話をしているだけの形式。「私は最近、仕事が忙しくて…」「へえ、私は週末に旅行に行ったんだけど・・・」

  • 真の対話: 互いを尊重し、理解しようとする姿勢から生まれる、活発な相互関係が生まれます。

「心理化」:相手の気持ちを理解する力

心理分析学者のピート・フォンナギは、「心理化」という概念を提唱しました。それは、自分の内面的な経験を理解し、相手の感情を正確に把握する能力のことです。

この能力は、健全な人間関係を築き、維持するために不可欠です。幸いなことに、脳は柔軟性を持っているため、幼少期に養育者から学べなかった心理化の能力は、その後の人生で、カウンセリングや親密な人間関係を通して学ぶことができます。

人間関係こそが、心理療法の核心

かつて、心理療法は、医師が患者の話を聞き、解釈し、洞察を与えるという形で行われていました。しかし、現在では、人間関係そのものが心理療法の最も効果的な部分であると考えられています。

医師がどのような学派に属しているかは重要ではありません。重要なのは、医師と患者の間の関係の質、そして、その関係の中で治療を提供できるという医師の信念です。

人生を豊かにするのは、誰かと「つながる」こと

私たちの精神的な健康や幸福に最も関係するのは、天気や仕事、趣味ではなく、周りの人との関係です。私たちは、生活のために努力し、目標を達成しようとしますが、私たちに最も大きな影響を与えるのは、私たちの周りの人々です。

心理療法士のルイス・コゾリノは、「生から死まで、私たちは皆、誰かに見つけてもらい、興味を持ってもらい、自分が何者であるかを知り、安心して過ごすために、他の人を必要としている」と述べています。

そして、心の傷を癒す専門家は、もっと率直にこう語ります。「人は一生に一度は救急病院に行くべきだ。そうすれば、人生で本当に大切なものが何であるかを知ることができる。それは忙しさでも、お金でもありません。それは、あなたを深く愛し、心配してくれる人々を知る機会を得るためです」

良好な人間関係を築くために

良好な人間関係を築くための「マニュアル」は存在しません。なぜなら、人間関係をコントロールしようとすると、相手を対等な存在として扱わず、支配しようとしてしまうからです。

私たちは、単に「共感する」というだけでなく、相手の育った環境や文化的な背景を考慮し、柔軟に対応する必要があります。

最も大切なのは、他の人との関係の中で、自分自身をありのままに表現し、相手の感情を理解しようと努めることです。そして、もし人間関係を築くのが難しいと感じたら、専門家の助けを求めることを恐れないでください。

私たちは、脳のネットワークの中で生きていると言ってもいいかもしれません。誰かと繋がることは、私たちの脳を豊かにし、私たち自身の行動を変える力を持っています。このことを忘れずに、より豊かな人間関係を築いていきましょう。

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